スポンサーサイト

上記の広告は2週間以上更新のないブログに表示されています。 新しい記事を書くことで広告が消せます。  

Posted by スポンサー広告 at

2009年10月28日

ブルーチーズにバローロを


じゅんじゅんです。

20代の半ばから、私は正月が嫌いになった。

お年玉をもらえぬから?いいえ私は遅くまで学生をしていたし、30代の

前半、仕事もしないで祖母の介護と称して家にいたので、両親の妹達から

感謝や同情のお小遣いを受け取っていて、それはしばしばお年玉という形

であったので、理由は別のものだ。

 ひとつには、その期間の、テレビ番組のおもしろくなさだ。

年末年始の時代劇もいいが、「関ヶ原」や忠臣蔵(君怒りもて往生をとぐ)

など歴代の名作に比べ、どんどん劣化して行っている気がするし、紅白も、

芸能人かくし芸大会も、往年を知っているものとしては、非常に物足りない。

「見ずに年を越せるか」というような番組は一つもない。

ヴィスコンティの映画もいいが、昔はめったにみられぬから楽しみであったが

近年、年末年始の深夜はヴィスコンティでも流しときゃ文句ないだろ、みたい

な感じで流されるのではなはだ食傷している。

ドイツでクリスマスイルミネーッションを見て、ベニスで初日の出を拝む

こともできる現代に、家にいなければならないことがはなはだ不本意だ。

私の友人たちは(特に年末年始に群れたいような)父親が医者や社長や、

正月自宅にいるとなにかと忙しい(急患や年始客で)ひとたちで、だから年末

年始、30.31.1.2.3くらいは、地方の温泉などに行ってしまって自宅にいない

ので、初詣に行くのにさえ、相手に不足した。

彼女たちは彼女たちで、両親と一緒の正月に食傷し、年々行ってる期間が短く

なった。27にもなると、だいたい紅白に間に合うように新幹線で両親を追い

かけ(そのために両親の行き先が山梨や蔵王温泉になった)2日の朝には東京

に戻る。それから私とスキー旅行に出発するか、デパートの展覧会などをへめ

ぐり歩いたりした。

それでも大みそかや元旦は、家にいるしか選択がない。

ある年、いつものワンパターンな父親好みの白みその煮餅のお雑煮に飽き飽き

した私は、正月二日に母が作る、かつおだしに鶏肉・かまぼこ・小松菜の

お雑煮に、どうしても毬フを入れてもらいたくて、デパートの食品売り場で

探していたのだが、ふと、自分用のお菓子を買うことを思いつき、チョコレー

ト売り場に行ったのだ。

風月堂のノンアルコールの、丸玉とストライプ模様の四角いのがセットになっ

たチョコレートを箱買いし、ふとみると、新設なったワイン売り場(第一次

ワインブームともいうべき時期だった)の棚に、イタリアワインが、キャンテ

ィ、バローロ、バルバレスコの順に並んでいた。

手に取ると、ボトルの裏にお薦めの料理がかかれていた。

キャンティはパスタや魚料理、鳥肉など。バローロにはブルーチーズやステー

キ。バルバレスコには牛肉の煮込み料理など。

わたしはブルーチーズとふすまのクラッカーを買い、バローロを二本買った。

紅茶はリプトンのアールグレイの缶を買った。

これでお雑煮とおせち攻めの間、ひとりのおやつや夜食にことかかない。

 一人の時間をブルーチーズとバローロで倦めることを覚えると、退屈な

正月番組も、正月の番組編成も、苦でなくなった。

バローロは、きっと今では飲めないのではないかと思うほどコクがあって、

ブルーチーズの苦みに負けない味があった。

ふすまのクラッカーは軽いが歯ごたえがあり、頼りない私の身の上を励ますか

のようにいつまでも口の中で存在を主張した。

「さびしい女は太る」というが、しかし、心の慰めとしては、行きずりの情事

よりも、ブルーチーズにバローロの方が、上等ではないかとさえ思った。

わたしは正月休みにブルーチーズとバローロで、渋澤龍彦を読み、サガンを

読み、退屈に退屈することなく、自由と怠惰に惑溺して過ごせた。

過ぎ去ってみると、ああいう時間は、あのころにしか持てないものであった。

今の私は、キャンティでもステーキでも焼かなければ飲みたいとは思わない。

ましてバローロなど、この先、口にすることがあるかどうか。

チーズにはドクター・スットプがかかっているし、正月には箱根駅伝鑑賞の

為に、けして出かけないまっさんがいるのだ。

それでもいつか、一人の時間に倦む昼下がり、あるいは深夜に、ブルーチーズ

にバローロを、そういうこころに用意があると、年をとっていくのも、

怖くない気がするのだ。

年をとれば、ドクター・ストップも関係ない。

もしも年をとって一人きりになったら、ベニスのセントポール寺院の広場の

カフェで、ウオークマンで「タイタニック」のテーマを聞きながら、ブルー・

チーズにバローロを。身は電動車いすに預けていたとしても。


  


Posted by massan&junjun at 22:33Comments(0)